きっと独りで生きていく。

ただのライフログ。

いつか最後に

記憶力の限界を最近感じる。


という話を上司にした。
業務の進捗も数日前の電話応対も、尋ねられればその場で即答できた。今はそれができなくなった。
チェックリストを作成して進捗管理してそれを見ながら答えるようになって、「思うに、それは年齢だ」と返ってきた。
上司も今の私ぐらいの年齢からそうなったと。


できることが増えていく一方で、できなくなることも確実に増えている。
酒は飲めなくなった。食事も以前と同じ量は食べられない。ゲームもぶっ続けでプレイする集中力はもうない。
悲しいとは思わない。
だけど、できなくなっていることに気がつかないでいるとたぶん幸せに生きられない。


20歳サバを読んで行動すること。脳を若く保つ秘訣だと聞いた。
20年前の自分が持ち得なかった力を持つ一方で、20年前の能力は失われている。


ゆっくりとしか歩けない高齢者を見るたびに、いつ自分はこうなるのだろうと思う。
人生が足りないとよく思う。

右手に白い紙

また、夢で例の人と会えた。


夢の中で、何度も同じ時をループしていた。
毎回起こることは異なっているけれど、繰り返すその時間を私は全て記憶している。
横にいる彼女はそうではないようだった。
だけど、繰り返す時間の中で得られる情報だけが彼女の中に蓄積されていた。

目の前のステージで行われるパフォーマンス。
さっきは赤髪だった。今度の彼は茶髪のメッシュ。
私は全て覚えている。何度も同じ時間を過ごしていることも知っている。
彼女はいつだって初めてのステージ。だけど、赤髪の彼の連絡事項は把握している。何故把握しているのかわからないまま。


彼女がどこかに本当にいるなら、同じことが起こっているんじゃないか、と目覚めたときは思った。
会ったのは私の夢の中だけど、彼女は私の夢を見ないのだろうけど、
私のことだけ知っていたりはしないだろうか。


眠る間に夢を見ることに理由があるなら、彼女の存在は私にとって無視できない。

右手に白い紙

また、夢で例の人と会えた。


夢の中で、何度も同じ時をループしていた。
毎回起こることは異なっているけれど、繰り返すその時間を私は全て記憶している。
横にいる彼女はそうではないようだった。
だけど、繰り返す時間の中で得られる情報だけが彼女の中に蓄積されていた。

目の前のステージで行われるパフォーマンス。
さっきは赤髪だった。今度の彼は茶髪のメッシュ。
私は全て覚えている。何度も同じ時間を過ごしていることも知っている。
彼女はいつだって初めてのステージ。だけど、赤髪の彼の連絡事項は把握している。何故把握しているのかわからないまま。


彼女がどこかに本当にいるなら、同じことが起こっているんじゃないか、と目覚めたときは思った。
会ったのは私の夢の中だけど、彼女は私の夢を見ないのだろうけど、
私のことだけ知っていたりはしないだろうか。


眠る間に夢を見ることに理由があるなら、彼女の存在は私にとって無視できない。

未来の自分に宛てて書く手紙なら

20歳を迎えた年に、10歳の自分から手紙が届いた。

 

たぶんまだ実家にあると思う。

自分が書いたと思うと目を背けたくなるほどの悪筆だった。

祝儀袋の表書を上司から頼まれるようになるなんてあの頃は想像できなかった。

 

昔から情熱をもって取り組むことなどなかった。

「将来何になりたい?」と聞かれるたびに答えは違っていた。

だけど、10歳の私は夢を綴っていた。

そして、20歳の私はその職業に就いていた。

 

今は、10歳の自分も20歳の自分も見向きしなかった職に就いている。

今までの仕事で最も自然に向き合えているように思う。

行き着いた、と表現するとしっくりくる。

夢は叶ったはずだったのに。

 

こんなはずではなかった。

だけど今までの人生、いつだって「今」が一番幸せだった。

「将来何になりたい?」

何になってもいいけど幸せになりたい。それだけ考えてきっと今まで来たんだろう。

 

回り道だったけど、いい景色だった。

丘の向こうが見えるのは、丘を登りきってから。

海の向こうを知るのは、海を渡りきってから。

Parsley,sage,rosemary,and thyme

何て歌っているのか知りたかった。それがきっかけだった。


サイモン&ガーファンクルが歌うスカボロー・フェアが好きだった。
幼い私は英語が分からなかった。だから歌えなかった。
母からCDを借りて、歌詞カードを見た。読めなかった。
何の歌なのか知りたくて辞書を引いた。


並んだ言葉の意味はわかっても、何の歌なのかはわからなかった。
韻という概念を知るのはもう少し後の話。
彼らの歌声に惚れ込んで、片っ端から歌を覚えていった。
音だけで記憶するほどには器用ではなかった。
英語の成績は悪かったが、学生として致命的にならなかったのは彼らの歌のおかげだった。


MAN WITH A MISSIONが歌えるようになりたい。
あの頃のようなスピードでは習得できなくて、歳を取ったもんだと思う。

眠らない悲しみで報復を誓った

ときどき夢に出てくる人にまた会った。


私も彼女も軍人だった。
国は真っ二つに割れていて、内戦の最中。軍までもが2つになっていた。
かつて仲間だった彼女は敵同士の立場になっていた。


不穏な街を彼女とともに抜けていく。
彼女の顔を知っている人がいるかはわからないけど、両手を後ろにまわしてもらった。
細い両手首を片手で掴み、もう片手には武器を握って、敵を拘束して連行する様で歩く。
信じていいんだよね、と2.3回言われた。


やがて人気のない森林地帯に。
この先に大きな河があることは2人ともよく知っていた。
このまま消されるって予想しかできないんだけど、と彼女は笑う。そう言いつつも抵抗はしない。
その冗談めかした空気のまま、そう、もう消えてもらうんだよ、と答えて手を離す。


あの河を下っていけば、亡命できること。
まだ対立も戦闘も深刻化していない今なら、安全に逃げ切れる可能性が高いこと。
そのための装備が準備してあること。
彼女を逃がすためにわざわざ連れてきたこと。


彼女は抱きついてきた。
暖かくて、小柄で、思ったよりすごく細かった。
妊娠したことを告げられて、2人してものすごく喜んだ。
最近体調が不安定だったのはそれか、と合点した。
相手はなんとなく覚えがあった。彼までは逃がすことはできないけど、きっとまた平和になるまで彼なら大丈夫だろう、と思った。


軍人の彼女に細やかな説明は不要だった。装備を見せればそれでよかった。
本当にありがとう、またね、平和になったときに戻ってくる。
そう言ってまた抱きついてきた。


死亡フラグだ、と思ったけどそんな感じがしない。
誰もが生きているうちにこの国の平和はまた来る。
また戻ってこれる。そう当事者たちが予想している。
そんな戦争もあるもんなんだなと彼女を見送りながら考えた。
私は懐かしい、陸上自衛隊の戦闘服に身を包んでいた。

木漏れ日を避ける様に

同僚の最終出勤まであと少し。


いつかまた会いましょう、と別れたら大抵もう会うことはない。
そう思って思い返すと、なんだかんだ本当に会ってないのは半分いかないかもしれない。
付き合いがあっても、もう会わないだろう相手にはいつかまたなんて言わなかったのかもしれない。
SNSも普及していて、連絡もとれないなんてことが少ないからかもしれない。


いきなり連絡が舞い込んできたりして、名前がすっと出てこないけど顔は浮かんだりその逆だったり。
知らなければ知らないままでとろくに別れも告げずに姿を消した割には繋がりを保てている。


有り難いことだろうけど、嬉しいとも別に思わない。
でも大切にしたい。
会いたい人がいるから。まだ会えていないから。