届くはずの無い想いをポケットにしまって
失うものの数だけ、降ってくるものがあった。
何かを得たら何かを失うとも言う。
一緒に働く仲間を失って、
降ってきた大量の業務は経験を積もらせて、
自分だけの時間は取れなくなって、
まだ顔も見たことない人が仲間になって一緒に働いてくれる。
出会いと別れのように、生と死のように、表裏一体のものたち。
捌けない仕事に追い詰められて、そんな環境を呪い始めるようになった。
喫煙量が増えて身体の調子が悪い日が続いた。
家に帰れば額の中で笑う人に安堵する一方で後ろめたさが背中を這うようになった。
いつも元気で笑っていたいと願ったはずだと何度思い返してもできなくなった。
絶対に手放すことはないと思っていた、紙巻タバコを吸うのをやめることにした。
プルームテックと電子タバコが今の相棒だ。
こんなにあっさり切り替えられると思わなかったし、
作り話のように身体の調子がよくなって少し笑えた。
部屋の中で吸えるようになったから、毎朝ベランダには出なくなった。
毎日眺めてた空は毎日じゃなくなった。
最後のツイートが青空だった人のことはまだ毎日思い出す。
あの空じゃないけど、毎日空は見ている。
なんとなく身体は軽いけど喉が壊れた。
周囲が本気で心配するほどに咳が止まらない。もともと汚い声がかすれきった。
電子タバコが合わないかもしれない。吸いすぎかもしれない。
でも吸うのはやめない。
いろんなことに手が届かない。
でも届かない幸せを誰もが知っているような気がする。
壁一枚、空の向こう、3メートル、カメラ越し、その距離の尊さがある。
触れてしまった日のことを覚えている。
ちょっと前にもあの人が夢に出てきた。出てきたことだけ覚えている。
もしいつか逢う日が来たら、「もしいつか」が失われることだけ知っている。