これでもまだ足りないのか
愚痴を肴に飲む酒が、心を洗う日もある。
上司が荒れに荒れている。
初めて見る姿である。
荒れたきっかけとなった出来事はものすごく下らない。
下らないが、無視するわけにもいかない。
人間関係というのは悩ましいものである。
下らない上に根本的解決は不可能と判断して、最も労力を使わず平和的解決をはかることとなった。
具体的には、ちょっとした小芝居を打つことにした。
朝に意味深に席を外し、上司は叱ったふりをする。私は少し落ち込んでいる素振りを見せる。
なんて下らない。
下らないことしか考えつかない。
こんな下らないことが最善策なのだから人間関係に起因する問題というのは悩ましい。
荒れた上司の話を聞きながら飲む酒の味はいつも通り。
なのにあまり杯が進まない。
上司は旨いのか不味いのかわからないが勢いはいつも以上。
酔いは進んだようだった。帰り道は少し楽しげな様子だった。
「やっぱり話をしようと思う」
明日の朝、そう言って小芝居を捨てる上司が現れないだろうか。
酒の席の意味はそういうところにあると思っているのだが。