君が使うことばひとつで
楽しいときも辛いときも独り。
髪を毎朝セットする。
かなりヘアスプレーを駆使する。
たぶんそのせいだと思っているけど、身支度が終わってからくしゃみが結構出る。
ゲームを起動して、読み込みを待っている間。
いつものようにくしゃみが出そうになった。
いよいよ出るそのとき、咳も一緒に出た。
信じられないくらい痛かった。
クラクションに似た音声が私から出た。
誰も聞いている人はいなかった。うずくまる私を笑う人もいなかった。
これからはどっちかを我慢しようと思う。
笑う声のかなたから
熱く燃える一面。
心の支え(推し)を失った翌日にマルチの勧誘を受けて次の週末。
酒を飲みながら退職した後輩に愚痴っていた夜。
亡くした恋人によく似たこの後輩もマルチの会員だったらそれこそネタになるなと思っていた。
そんな3流のギャグストーリーは描かれなかった。
後輩が重く口を開いたことには、退職してからというものうちの社員からマルチの勧誘を今に至るまで受けていると。
居酒屋でキレ散らかした夜。
後輩はもう少し話を続けて、私の現在割と近いところの情報もくれた。
その可能性はあの夜から考慮して、決して近づいてくれるなと職場で暴言を吐き散らしていた。
嫌なほうの直感は当たるように感じる。
相談してくれた後輩には、どれだけ恩義を感じていようと二度と会うなと。
会うなら旦那でも私でもいいから誰か連れていけと。
一連の愚痴を吹き出しながら聞いてくれていた人々には、私情は否定しないが後輩の件は全力で解決すると。
熱い一面があることを知った思いだと、今日は2度言われた。
恨みだけは人一倍忘れない。
きっと誰にも奪われないモノが
失ったものは取り返せない。失ったことさえ気づかぬ者には同情もできない。
推しの卒業公演を観に行って、予想以上の喪失感に打ちのめされて。
そんな日に、実に4年振りに連絡を寄越してきた人と会ってきた。
勘案すべき事情はあったかもしれないが、差し引いても泥をかけるように消えたとしかいいようのない別れだった人。
自分からすれば、消息不明だった人。
色々と自分に言い訳して会うことにしたが、まあ、情が出てのことだった。
話を聞くにあまり変わってなくて、それでも少しマシになってるかなと感じていた矢先。
自然に見せるようでいて唐突にマル チの勧誘を切り出した。
絵に描いたようなクズが近くにいたもんだ。
あまりに典型的すぎてネタみたいだ。
こんな露骨なストーリー、自分の馬鹿さの証明に他ならない。
敵陣まで誘われるままに入りこんだ馬鹿は私だ。
相手の人数が多かったので大人しく次に会う約束をしてその日は去った。
どこまでも自己嫌悪の帰り道。
これでも心の支えを失って落ち込んでいたんだ。
誰に話しても笑うしかない追い討ちを受けて凹みに凹んだ。
お前みたいな奴がいるから生身の人間が無理になって独りで生きていこうと心の支えがアイドルになったりするんだよ消えてもらっていいですか。
推しの最後のSNS更新は愛に溢れているのに、人を澄んだ心で見れそうなのに、信じようかと思えばこんなことになる。
どんなギャグ漫画なんだろうこれは。
推しが贈ってくれた最後の言葉と、
自分が招いた喜劇のような災難の狭間で食欲を無くしていたが、
話した誰もが笑ってくれて気が晴れた。
おかげで冷静になったので
あからさまな嘘で約束を放って
地球を汚すと知ってて預かったDVDを川に放って
まさに奴がしたように泥をかけるように連絡をぶち切った。
そして推しが笑顔で写るポストカードが飾ってある部屋に帰ってきた。
なんだか腹が減ってきた。
1人きりで生きてきたような顔して
夢に時々出てくる人の話。
前職では制服があった。
最前線で汚れる立場である証だった。
尊敬のような哀れみのような目を向けられていた。
私は、よく似合うと言われることが多かった。
皮肉ではなく誇りに思っている。
今は恐らくもう似合わない。
今日は時々出てくるあの彼女とその制服の話をしている夢を見た。
彼女はたぶん似合わない。
クリーンな職場で働くエリートの証。そんな制服も前職にはあって、彼女はその姿がよく似合う。
私でさえも見たことがない姿だけど、10人が10人ともそう答えそうな顔立ちと体つきをしている。
本日は節分。
前職で使っていた、米軍のコンパスで恵方を見つけた。
銃と地面に打ち付けてずたずたに傷がついている。
当時どうやって使っていたか話をしたら同僚は、そんな経験をした人がなんでこんなところで経理なんかやってるんだと笑っていた。
今はもう似合わないけれど、傷だらけのコンパスがよく似合っていた私と、
あの彼女みたいな今までもこれからも似合わないような人。
今日は、どんな奇跡が起こっても会えないような気がした。
そのままでいいのにと
自分の声と折り合いがついていない。
骨伝導で聞こえてくるいつもの自分の声と
録音された他人がいつも聞いているであろう自分の声。
違う声質で聞こえているのは知っている。
録音された自分の声を聞くとき、
マイクを通してスピーカーから響く自分の声を聞くとき、
電話の回線の調子で、発した声が受話器から聞こえてくるとき、
この声で今まで生きてきたと思うと消えたくなる。
決していい声だと思ったことはないけれど、自分で聞く声はそれほど嫌いではない。
しかし他人と同じ立場で聞く声は本当に好きになれない。
未だに折り合いがつかない。
あまり誉められることもないから本当にいい声ではないと思っている。
特徴的な声であることも知っている。
どうせ変わった声をしているなら、美しい声だったなら、とよく思う。
帰れない人波に
狩猟解禁の日。
休みをとった。
昨日は帰宅して風呂に入ってすぐに寝た。
起きたら朝の4時。寒さで寝床から出られないので部屋を暖めながら、身体が動くまでじっとして。
二度寝できたらしたいけど、年齢のせいかもう眠れない。
朝の6時まで倦怠感は抜けずに横たわる。
コンビニで菓子を買い込んで、1日狩りにいそしんだ。
一番幸せなときはと聞かれたら難しいが、
好きなゲームの新作が発表されたときか、それを予約したときか、初めて起動してオープニングを見ているときだと思う。
モンハンは毎回オープニングで泣いている。
以前ほど集中力も体力ももたない。
段々とプレイが荒くなってきたと思ったら一旦やめる。
それぐらいでコントローラーのバッテリーも限界に近くなっている。
やはり好きな割には上手くならない。
休日はコントローラー握れども欠かさず指輪をつけているが、モンハンは外す。
コントローラーを削るかもしれないから。それぐらい力が入る。
以前は徹夜したことに気づかないほど熱中できたものだが。
恐らく今日は眠る。
もう一狩りしたら。
あのささやかな人生は
ウルトラCを決めたチームが私をもう1人見つけてきた。
ウルトラCを毎月決めていたらダークサイドに堕ちる前に全滅してしまう。
補充人員の確保は最優先事項だった。
私のような人を、と有り難いお言葉と共に探してくださった。
しかしながら、存在するはずがない。と正直に答えていた。
今まで生きてきて出会ったことがなかったから。
なのにかなりの早さで見つけてきた。
結構たくさんいるのかもしれない。
面接をした3人が3人とも私に似ていると言うのだから本当に似ているのだろう。
容姿が、というわけではなくて全体感として、雰囲気が、ということらしい。
会うのが怖い。
他人から見た自分が目の前に現れるというのはなかなか強烈な出来事だと知った。
自分をどれだけ客観視できているかの答え合わせだ。
好ましい人物でも受け入れがたい人物でも目の当たりにしたくない。
でも明日来る。隣の席に。
他人とは思えない。
そんな感情が湧くような人だったなら、それが最良ということだろうか。