きっと独りで生きていく。

ただのライフログ。

未来の自分に宛てて書く手紙なら

20歳を迎えた年に、10歳の自分から手紙が届いた。

 

たぶんまだ実家にあると思う。

自分が書いたと思うと目を背けたくなるほどの悪筆だった。

祝儀袋の表書を上司から頼まれるようになるなんてあの頃は想像できなかった。

 

昔から情熱をもって取り組むことなどなかった。

「将来何になりたい?」と聞かれるたびに答えは違っていた。

だけど、10歳の私は夢を綴っていた。

そして、20歳の私はその職業に就いていた。

 

今は、10歳の自分も20歳の自分も見向きしなかった職に就いている。

今までの仕事で最も自然に向き合えているように思う。

行き着いた、と表現するとしっくりくる。

夢は叶ったはずだったのに。

 

こんなはずではなかった。

だけど今までの人生、いつだって「今」が一番幸せだった。

「将来何になりたい?」

何になってもいいけど幸せになりたい。それだけ考えてきっと今まで来たんだろう。

 

回り道だったけど、いい景色だった。

丘の向こうが見えるのは、丘を登りきってから。

海の向こうを知るのは、海を渡りきってから。

Parsley,sage,rosemary,and thyme

何て歌っているのか知りたかった。それがきっかけだった。


サイモン&ガーファンクルが歌うスカボロー・フェアが好きだった。
幼い私は英語が分からなかった。だから歌えなかった。
母からCDを借りて、歌詞カードを見た。読めなかった。
何の歌なのか知りたくて辞書を引いた。


並んだ言葉の意味はわかっても、何の歌なのかはわからなかった。
韻という概念を知るのはもう少し後の話。
彼らの歌声に惚れ込んで、片っ端から歌を覚えていった。
音だけで記憶するほどには器用ではなかった。
英語の成績は悪かったが、学生として致命的にならなかったのは彼らの歌のおかげだった。


MAN WITH A MISSIONが歌えるようになりたい。
あの頃のようなスピードでは習得できなくて、歳を取ったもんだと思う。

眠らない悲しみで報復を誓った

ときどき夢に出てくる人にまた会った。


私も彼女も軍人だった。
国は真っ二つに割れていて、内戦の最中。軍までもが2つになっていた。
かつて仲間だった彼女は敵同士の立場になっていた。


不穏な街を彼女とともに抜けていく。
彼女の顔を知っている人がいるかはわからないけど、両手を後ろにまわしてもらった。
細い両手首を片手で掴み、もう片手には武器を握って、敵を拘束して連行する様で歩く。
信じていいんだよね、と2.3回言われた。


やがて人気のない森林地帯に。
この先に大きな河があることは2人ともよく知っていた。
このまま消されるって予想しかできないんだけど、と彼女は笑う。そう言いつつも抵抗はしない。
その冗談めかした空気のまま、そう、もう消えてもらうんだよ、と答えて手を離す。


あの河を下っていけば、亡命できること。
まだ対立も戦闘も深刻化していない今なら、安全に逃げ切れる可能性が高いこと。
そのための装備が準備してあること。
彼女を逃がすためにわざわざ連れてきたこと。


彼女は抱きついてきた。
暖かくて、小柄で、思ったよりすごく細かった。
妊娠したことを告げられて、2人してものすごく喜んだ。
最近体調が不安定だったのはそれか、と合点した。
相手はなんとなく覚えがあった。彼までは逃がすことはできないけど、きっとまた平和になるまで彼なら大丈夫だろう、と思った。


軍人の彼女に細やかな説明は不要だった。装備を見せればそれでよかった。
本当にありがとう、またね、平和になったときに戻ってくる。
そう言ってまた抱きついてきた。


死亡フラグだ、と思ったけどそんな感じがしない。
誰もが生きているうちにこの国の平和はまた来る。
また戻ってこれる。そう当事者たちが予想している。
そんな戦争もあるもんなんだなと彼女を見送りながら考えた。
私は懐かしい、陸上自衛隊の戦闘服に身を包んでいた。

木漏れ日を避ける様に

同僚の最終出勤まであと少し。


いつかまた会いましょう、と別れたら大抵もう会うことはない。
そう思って思い返すと、なんだかんだ本当に会ってないのは半分いかないかもしれない。
付き合いがあっても、もう会わないだろう相手にはいつかまたなんて言わなかったのかもしれない。
SNSも普及していて、連絡もとれないなんてことが少ないからかもしれない。


いきなり連絡が舞い込んできたりして、名前がすっと出てこないけど顔は浮かんだりその逆だったり。
知らなければ知らないままでとろくに別れも告げずに姿を消した割には繋がりを保てている。


有り難いことだろうけど、嬉しいとも別に思わない。
でも大切にしたい。
会いたい人がいるから。まだ会えていないから。

想いよどうか届いてほしい

3日続けば本物、という言葉をツイッターで見かけた。

 

3日続くようならその感情は疑いようのないもの、ということらしい。

会社に対しての憎悪が低減しないなら逃げることも考えろ、というような趣旨だった。

 

憎しみは消えない。感謝も消えない。

ずっと考えていることがある。

余命あと一週間とわかったら、恨みある人物に復讐を果たすか世話になった方々に感謝を伝えに行くか。

自分はどちらを選ぶのだろう。どちらも選ばずに最期まで独りでいることを選ぶのだろうか。

 

余命があと一週間もあるかどうかなんてわからないのだから、

死の際に後悔するくらいなら感謝は伝えられるだけ伝えておきたいものだ。

3日続いたら、伝えないといけない。伝えないままだときっと死に際後悔すると思う。

 

目の前にして言葉にしても伝わっているかわからないときもあるし、

遠すぎて伝わったかどうかなんて知る術がないときもある。

 

自己満足以外の何物でもない。

どうかありがとうが届いていてほしい。

ぐるぐるはらせん階段

頑張りたいのに頑張れないとき、ネジを回す。

 

資格試験の日が近づいているのに全然集中できない。危機感もない。

クズになってしまった自分を責める前にとりあえず勉強はやらないといけない。

 

ぼーっとしかけたら、オルゴールを鳴らす。

いつも元気をくれているアイドルグループの曲が流れてくる。

曲自体は今の状況には重ねられるようなそうでもないような、でも大好きな彼らのことを思い出す。

 

頑張りたいけれど頑張れない。

笑顔になることができない。

そんな日だってあるだろうに、彼らはいつだって笑顔を見せてくれる。

それが仕事だ、といえばそうだけど、自分は出来ない日があった。

彼らにできて私ができないはずはない、ともう一度頑張ろうと思ったはずだった。

 

そして今がある。試験もだから受けようと思ったんだ。

それを無理やりにでも思い起こすためにオルゴールを回す。

流れてくるフレーズは今の自分に全く関係ないけれど、ちょっとだけ意志が戻ってくる気がする。

 

絆 小さく結ばれてく

出会えてありがとう

君の声が戻ってくる

皆、桜が似合う姿をしていた。


自衛隊員となって2年目の春。
新入生を迎えるパレードに向かう道。
地獄のような日々が始まったばかりの頃、すでに満開になっていた桜の花弁を浴びていた。

始まったばかりだったけど、もう長いこと地獄に囚われているような気がしていた。
桜が咲いていることに気づいたのはようやくそのときで、きっと顔も上げず瞳も死んで息をしていたのだろうと思う。


目の前に連なる自分と同じ紺の制服を着た同期と先輩たち。
舞い散る桜色はよく映えて美しかった。
そういえば、陸は緑、海は黒、空は藍、
全て桜の似合う色をしていたな
我々は桜が似合う姿をしているのだな
そう思ったことだけ、地獄の日々のその時間だけ、妙に覚えている。


制服はもう脱いだ。
今は黒い服をよく着ているが桜の季節はどうだろうか。
今の自分にはきっと桜は似合わない。
少なくともあの頃の自分ほどには。


それはとても美しかった。