きっと独りで生きていく。

ただのライフログ。

宵闇をゆく人だかりは

金曜の夜を行き交う人々は皆楽しそうだ。


服装規定のない弊社、上司たちと飲みに繰り出すと大学生の飲み会と見分けはつかない。
中学生みたいな格好してる上司ほどの経理マンはそうはいないとここ最近で実感している。


ラストオーダーの時間に夕飯に駆け込むような業務日程が続く日々。
我々よりも優良な企業に勤めて、安定の人生を約束されていそうなスーツ姿の青年の集団がそれはまあ滑稽に朗々と歌っていてなんとも言えない光景。
幸せってなんだろな、って台詞はこういうときに出てくるのだと思う。


もう電車も動かない深夜、住むマンションが近くなってきたとき、
まだ明かりが点いている窓もいくつかあるのを見てほっとした夜を覚えている。
丑三つ時の家路でも、誰ともすれ違わない夜はなかった。
こんな時間に起きているのは自分だけじゃないと、孤独を感じない。


東京が好きな理由だ。

スーパースターになったら

ひ弱になった自分を嘆くことはたまにある。


去年の今ごろはこんなに大変だっただろうか。
眠れなくなるまでいくとは思っていなかった。
だけど、ようやく少しずつ平穏に向かう兆しが見えてきた。


数ヶ月前にロフトベッドに買い換えたときのことをふと思い出した。
帰りたい家にしようと、住み心地のよさを追求すべく。
寝心地が悪いのは論外とマットレスも購入した。


1人で組み立てるのは少々無謀だった。
でもなんとかなった。どうやったかはあまり覚えていない。
ただ、予想外に大変で記憶にあるのがマットレスを組上がったベッドに乗せることだった。
かなり重くて頭より上に持ち上げられなかった。


昔は戦士だったので持ち上げられないと思っていなかった。
ショックを受けたというより純粋に驚いた。
もうできないんだ、ぼんやり思った。
その能力を取り戻すこともたぶんしない。


6年選手のウォークマンが壊れて捨てた。
当たり前に毎日側にあったものだけど壊れてしまってはどうしようもない。
そんな風に自分の中のいろいろも捨てていく。
ちょっと寂しい気持ちがしなくもないけど、選ぶ理由がなければそうなる。


そうなってこうなって今に至る。
持ち上げられなくても結局乗っけられた。
非力になった自分を残念に思うけど、戦士の力を取り戻すことはない。

届くはずの無い想いをポケットにしまって

失うものの数だけ、降ってくるものがあった。

 

何かを得たら何かを失うとも言う。

一緒に働く仲間を失って、

降ってきた大量の業務は経験を積もらせて、

自分だけの時間は取れなくなって、

まだ顔も見たことない人が仲間になって一緒に働いてくれる。

 

出会いと別れのように、生と死のように、表裏一体のものたち。

 

 

捌けない仕事に追い詰められて、そんな環境を呪い始めるようになった。

喫煙量が増えて身体の調子が悪い日が続いた。

家に帰れば額の中で笑う人に安堵する一方で後ろめたさが背中を這うようになった。

いつも元気で笑っていたいと願ったはずだと何度思い返してもできなくなった。

 

絶対に手放すことはないと思っていた、紙巻タバコを吸うのをやめることにした。

プルームテックと電子タバコが今の相棒だ。

こんなにあっさり切り替えられると思わなかったし、

作り話のように身体の調子がよくなって少し笑えた。

 

部屋の中で吸えるようになったから、毎朝ベランダには出なくなった。

毎日眺めてた空は毎日じゃなくなった。

最後のツイートが青空だった人のことはまだ毎日思い出す。

あの空じゃないけど、毎日空は見ている。

 

なんとなく身体は軽いけど喉が壊れた。

周囲が本気で心配するほどに咳が止まらない。もともと汚い声がかすれきった。

電子タバコが合わないかもしれない。吸いすぎかもしれない。

でも吸うのはやめない。

 

いろんなことに手が届かない。

でも届かない幸せを誰もが知っているような気がする。

壁一枚、空の向こう、3メートル、カメラ越し、その距離の尊さがある。

触れてしまった日のことを覚えている。

 

ちょっと前にもあの人が夢に出てきた。出てきたことだけ覚えている。

もしいつか逢う日が来たら、「もしいつか」が失われることだけ知っている。

届かぬ想いがまたひとつ

今年も東京で桜が見れた。


昨年の桜の季節も、今と同じように忙しくて自分の時間が取りづらかった。
帰り道に見事な桜の樹がある公園があって、たまたま少し早く帰れた日に、独りで酒を飲んで夜桜を眺めた。
会いたい人がいて、会えないのは分かっていたけどどこか待っているような心持ちで。


今日もほんの少しいつもより早く帰れたから、あの日と同じように酒を飲みながら同じ公園で同じ桜を眺めている。
変わらず見事な満開振りである。
今日と同じ明日が来ることが幸せだと言って、それでも自分は変わっていく。
毎年咲き誇る桜を見て思い知る。どうして変わらないように見えるんだろう。


永遠は存在しない。
願うことのひとつに、死ぬまで桜は咲いていて欲しい、がある。
願ってきたことはたくさんある。
桜を見るとひとつひとつ思い出していく。

さよならの代わりに

帰りたい家にした。

 

ゲームをしていて、いい座椅子が欲しい、と思った。

ネットでいいものがないか調べた。

良さそうなものを見つけたが、今の家に置くのは大きすぎる。

どうにかスペースを空けられないかと考えて、ベッドをロフト型に買い替えることにした。

以前から少し考えてはいたが、少し思いつきに近いような勢いで。

 

届くまで床で寝たり組み立てに苦労したり筋肉痛になったりしながら、無事に模様替えは終わった。

思っていた以上に圧迫感はすごいがスペースは広くなった。

ただ、やっぱり新しい座椅子を入れるのは少し考えたほうがいいかもしれない。

 

ロフトベッドの下は色々と活用の仕方があった。

あらゆるものの置き場をこれから作っていく。

秘密基地のような佇まいでとても気に入っている。

 

でも収納を作るより先に

とある人の写真を飾った。フレームは今日買ってきた。

 

仕事は波乱万丈だけどこれから先は割りと明るい未来が見えている。

帰る家はとても居心地がよくなって、やりたかったことがひとつずつ叶えられる場所になっていっている。

こうやって前へ前へと進む力をくれた人の写真。

立ち止まらずに一歩前へ、その意志を持たせてくれた人。

もう会えないけど、今も心の中にいる人。

今の自分の居場所を手に入れる力をくれた人。

 

108円のガラスのフレームの中で、笑顔で手を振っている。

大好きな笑顔が、今日も明日もこっちを見ている。

淡き光り立つ

血を分けた妹と、久し振りに会えた日。


体力以外のすべてが私に勝る妹。
どこでも生きていける人材だ。
私の企業も欲しがったけど、とても今と同じ給与は払えないから諦めろと一蹴した。
身体の弱い妹は自分が生きていける場所を自分でしっかり選んだ。


大抵の場所なら生きられる体力のある私は目の前にあるものにひたすら飛びついていった。
お互い、全く違う感性で幸せに生きている。


唯一の共通点は、遺伝による体質。
あまり燃費がよくなくて、夕食を抜くとパフォーマンスに影響が出る。
腹の出た父も夕食から炭水化物を抜いた途端に痩せ細った。
やっぱり血は争えないと、でも正直夕飯面倒なとき結構あるよねと、笑い合った。


幼い頃、頼んでもいないのにゲームボーイが私と妹に買い与えられた。
私はそのときからゲームに没頭し、妹は楽しさを理解できずに、私は一人で通信ケーブルを繋いでいた。
その頃から私と妹は違う人生を歩き始めていた。
あまり妹の面倒を見た記憶もなく、高校を卒業したら家を出て自衛隊へ。
妹は地元の有名大学へ進学して、つい最近まで実家で暮らしていた。


そんな妹との酒の話は仕事のことばかり。
今ではお互い管理部門。結局は血は争えない。
熱く語るでもなく、ささいな喜劇を紹介しあって大爆笑する。


妹の身体が弱いのは、私が母の腹から強靭になれる遺伝子をかっさらったからだと。
だから私は人並み以上の体力があって、妹は私の持たない全てをもって生まれている。
小さい頃は双子のように似ていると言われたのに、育つにつれて似ていないと言われるようになった。


強靭な身体をもたなくても、強ければ生きていける。
能力に乏しくても、強ければ生きていける。
私たちはどこでだって生きていける自負があるから、お互いそうだと知っているから、離れて暮らすのも寂しくない。


元気で、また会う日まで。

君だけが守れるものがどこかにあるさ

ここにいる家族一丸となって頑張っていくしかないんだ。そう言われた。


同じ部署だけど、なんとなく2つのチームに分かれて業務にあたっていた。
もう1つのチームが、全員時期を同じくして退職することを知らされた日。
上司にそう言われた。私のチームは家族だった。


私に似ているらしかった人は契約を切られた。
もう本当に家族しかいない。


もう1つのチームの方々、いずれ去っていくことは想像できた。話してくれた人もいた。
ここにはずっと残ろうなんて思わないでほしい。でも、自分が去るまでは辞めないでくれ。
そう頼まれていた。
いざ報告を受けて、その理由がよくわかった。誰かが去ると辞められなくなってしまう。


お世話になった方々だからその言いつけは守ろうと思っていて、
いずれ経験を積んだら私もどこかへとは考えていた。
こんなに早く、それも一気に訪れるとは思っていなかった。


そんな中、来期の方針が発表された。
半分になってしまった部署で、残された家族だけでどうにかできるとはすぐに思えなかった。
もう辞められなくなってしまった。それだけは確実だった。


今日と同じ明日が来ることが幸せだと、
そう言ってそんな日々が一向に訪れない。